「その大学で、本当にいいの?」と言ってしまった夜――志望校選び、親が口を出していい範囲・引きたい3つの線

夏休みが終わり、そろそろ志望校を紙に書いて提出する時期がやってきます。子供が出してきた志望校の一覧を見て、「え、そこ?」と思わず口に出してしまった。あるいは、言葉を飲み込んだまま何も言えずに数日が過ぎている。この記事は、そんなふうに「どこまで言っていいのか分からない」と感じている高校生のお父さん・お母さんに向けて書いています。

志望校選びは、受験期のなかでも特に親子がぶつかりやすいテーマです。学費も、通学も、将来も、親には現実的に見えてしまう。でも決めるのは子供本人。この「見えているのに決められない」という立場が、親をいちばん苦しくさせます。今回は、口を出していい範囲と、少し引いておきたい範囲を、3つの線引きで整理してみます。

線その1:「条件」は親の領域、「価値観」は子供の領域

線その1:「条件」は親の領域、「価値観」は子供の領域

まず、いちばんはっきりしている線から。お金と安全と時間に関わる話は、親が伝えていい領域です。むしろ、伝えないほうが後で子供を追い詰めます。

たとえば、自宅から通える範囲なのか、下宿は可能なのか。私立の学費や、6年制の学部を選んだ場合の総額。奨学金を使う前提があるのかどうか。併願できる本数の上限。こうした「家庭としての条件」は、子供が自分で調べようのない情報です。高校生が親の家計を正確に把握しているケースはほとんどありません。

ここで大事なのは、伝え方より伝えるタイミングかもしれません。出願直前に「そこは無理」と言われるのと、9月の段階で「うちはこういう条件だから、その中で選んでほしい」と言われるのとでは、子供の受け止め方がまったく違います。条件は早く、はっきり、感情を乗せずに。これが一つ目の線です。

一方で、「その学部を選ぶ理由」「なぜその大学に惹かれるのか」といった価値観の部分は、子供の領域です。親から見て理由が薄っぺらく見えても、本人のなかでは形になりかけている途中ということがあります。この段階で評価を下すと、次から本音を話してくれなくなる、という声はよく聞きます。

線その2:「情報を足す」はいい、「結論を差し替える」は避けたい

線その2:「情報を足す」はいい、「結論を差し替える」は避けたい

親が口を出したくなるとき、その多くは「もっといい選択肢があるのに」という思いからです。この気持ち自体は、まったく責められるものではありません。問題は、それが情報の提供で止まるか、結論の差し替えまで行くかです。

「その分野なら、こっちの大学にも似た学科があるみたいだよ」と資料を置いておくのは、情報を足す行為です。子供は受け取っても受け取らなくてもいい。選択肢が増えるだけで、決定権は本人に残ります。

一方、「そこはやめて、こっちにしなさい」は結論の差し替えです。仮にその判断が客観的に正しかったとしても、本人が納得しないまま決まった志望校は、直前期にいちばん脆くなります。伸び悩んだとき、模試の判定が下がったとき、「そもそも自分が選んだわけじゃない」という気持ちが逃げ道になってしまうことがあるからです。

もし、どうしても伝えたい懸念があるなら、結論ではなく質問の形にしてみるという選択肢があります。「その大学のカリキュラムって、どんな感じなの?」「卒業した人はどういう進路が多いの?」。答えられなければ本人が調べます。答えられたなら、それは親が思っていたより本気だったということです。

線その3:「今」の学力ではなく、「これから」の余地で話す

線その3:「今」の学力ではなく、「これから」の余地で話す

三つ目は、少し気づきにくい線です。夏が終わった時点の模試成績を見て、「今の成績で、そこは厳しいんじゃない?」と言いたくなる場面があります。数字は目の前にあるので、根拠があるように感じられます。

ただ、高3の9月からの伸びは、それまでの伸び方とは別物になることがあります。基礎が一通り入り、過去問演習に入ってから急に点が繋がる子は珍しくありません。8月の判定は「今の位置」を示すもので、「到達点」を示すものではないという前提は、親のほうが持っておいたほうが楽かもしれません。

とはいえ、現実的な話を一切しないのも不安だと思います。そこで有効なのが、志望校を1つの点ではなく、幅で置くという考え方です。第一志望はそのままにして、その周辺に併願候補を一緒に並べていく。「そこはやめよう」ではなく「そこも受けるとして、あと2つくらい考えておこうか」。否定せずに現実を織り込む方法として、多くのご家庭で機能しています。

併願校の話は、10月・11月に持ち越すと出願スケジュールと重なって、家の中がぴりつきやすくなります。まだ余裕のある9月のうちに一度話題に出しておくだけでも、後の負担はかなり違ってきます。

まとめ:迷ったら「これは条件の話か、価値観の話か」

志望校選びで口を出すべきか迷ったとき、判断の軸はシンプルにできます。これは家庭の条件に関わる話か、それとも本人の価値観に関わる話か。条件なら早めにはっきり伝える。価値観なら、情報を足すところまでにとどめる。この一本の線があるだけで、言うか言わないかで消耗する時間はずいぶん減ります。

そして、口を出さなかったことを後悔する日もあると思います。でも、親が引いた分だけ、子供が自分で決めた実感を持てるという面もあります。どちらが正解とも言えないなかで、迷いながら関わり続けていること自体が、すでに十分なサポートです。

それでも、家庭のなかだけで話すと感情が入り込んでしまう、というときは、第三者の視点を挟むという方法もあります。勝つ塾では保護者面談で、志望校の現実的な組み立てや併願プランについて、成績データをもとにご一緒に整理しています。ご家庭だけで抱え込まずに、使えるものは使っていただければと思います。