「まだ起きてるの?」と言えなかった夏――受験生が睡眠を削り始めたとき、親が引きたい3つのライン

深夜1時、2時。子供の部屋の明かりがまだ消えていない。声をかけたら「今いいところなのに」と言われそうで、結局そっとドアの前を通り過ぎた――。この記事は、受験生のお子さんが睡眠時間を削り始めて心配だけれど、どう言えばいいか分からない保護者の方に向けて書いています。「もっと寝なさい」が響かない理由と、親が引いておきたい3つのラインを一緒に整理していきます。

「寝なさい」が届かないのは、子供が正しさを知らないからではない

「寝なさい」が届かないのは、子供が正しさを知らないからではない

睡眠が大事なことは、実は本人が一番よく知っています。学校でも塾でも、そして親からも、繰り返し言われてきているからです。それでも削ってしまうのは、知識の問題ではなく、「不安を削るために睡眠を削っている」からであることが多いように感じます。

模試の結果が思わしくなかった。周りの友達が自分より進んでいるように見える。夏休みなのに、思ったほど進まなかった。そういう焦りを抱えたまま布団に入ると、眠れない。だったら起きて何かやっていたほうが、まだ気持ちが楽になる。この順番で睡眠が削られているとき、「寝なさい」という言葉は、その不安に何も答えていないことになります。

だから親御さんが「もっと寝なさい」と言い、子供が「うるさいな」と返す。この会話が噛み合わないのは、どちらかが悪いからではなく、話しているレイヤーが違うから、という見方もできます。親は健康の話をしていて、子供は不安の話をしている。ここがずれていると、正しいことを言えば言うほど、会話は短くなっていきます。

もし余裕があれば、「寝なさい」の代わりに「今、何が一番気になってる?」と聞いてみる。返事が返ってこなくても構いません。「心配している」ではなく「気にかけている」が伝わるだけでも、深夜の孤独感は少し変わることがあります。

ライン①:健康に直結する範囲は、親が線を引いていい

ライン①:健康に直結する範囲は、親が線を引いていい

「受験のことは本人に任せる」という方針を持っている親御さんは多いですし、それはとても健全な姿勢だと思います。ただ、睡眠に関しては、任せきりにしなくていい領域が確かにあります

目安として、多くの高校生にとって必要な睡眠は6〜8時間程度と言われています。もちろん個人差はありますが、これが4時間台、3時間台まで落ちて、それが3日、4日と続いているなら、それは「頑張っている」ではなく「削りすぎ」の段階に入っている可能性があります。

この範囲については、親が線を引いても構わないと考えています。ただし引き方が大事です。「絶対に12時までに寝なさい」という命令ではなく、「うちは深夜1時以降は部屋の電気を消すことにしよう。理由は、そこから先は体が壊れるから」と、ルールと理由をセットで伝える。子供が納得するかどうかは別として、「親が勝手に決めた」ではなく「理由があって決めた」という形が残ります。

そしてもうひとつ。線を引いたら、可能な範囲で親も一緒にその時間を守る。「先に寝るね」ではなく「そろそろうちも消すね」と言えると、押しつけの感じが少し薄まります。完璧にやる必要はありません。週の半分できれば十分です。

ライン②:勉強の中身には踏み込まない

ライン②:勉強の中身には踏み込まない

睡眠時間について話すとき、つい一緒に出てしまいがちなのが「そんな時間まで何やってたの」「その科目、今やる必要ある?」という言葉です。心配から出てくる自然な問いなのですが、ここを踏み越えると、話の主題が睡眠から「勉強のやり方の批評」に変わってしまいます。

そうなると、子供の側からは「結局、勉強のダメ出しがしたかったんだ」と受け取られやすくなります。次からは睡眠の話題そのものを避けるようになり、深夜に起きていることを隠すようになる。これは、親にとっても子供にとっても損な展開です。

睡眠の話をするときは、睡眠の話だけをする。何を何時間やったかは、この場では聞かない。物足りなく感じるかもしれませんが、「この話題では叱られない」という安心感が積み重なると、子供のほうから「今日、化学が全然進まなかった」と漏らしてくれる日が来ることがあります。中身の話は、そのときで間に合います。

もし勉強の進め方そのものに不安があるなら、それは親が直接指摘するより、学校の先生や塾の講師といった第三者に託したほうが、家庭の空気を守れるという選択肢もあります。

ライン③:入試本番の時間割から逆算する、という共通の物差し

感情的な言い合いになりにくい話し方として、「本番の時間から逆算する」という切り口があります。

共通テストも多くの大学の個別試験も、朝9時台には1科目目が始まります。その時間に頭が働く状態を作るには、遅くとも7時前後には起きていたい。そこから逆算すると、就寝時刻はおのずと決まってきます。

この話し方の良いところは、親の心配ではなく、入試のルールが基準になる点です。「お母さんが心配だから」だと反発の余地がありますが、「入試が朝9時からだから」には反論しにくい。しかも、これは受験生本人の得点に直結する、極めて実利的な話です。

秋以降、模試の回数が増えてくると、この逆算は自然に体感されていきます。朝型に戻すのは1日ではできないので、夏の終わりから少しずつ、というのが現実的なところです。焦って一気に戻そうとせず、「今週は15分だけ早く」くらいのペースで十分間に合います。

なお、ここでも「じゃあ明日から6時起きね」と親が設計してしまわないほうがうまくいきます。逆算の考え方だけ渡して、実際の時刻は本人に決めてもらう。決めたのが自分だという感覚が、続くかどうかを大きく左右します。

まとめ:削られているのは、たぶん睡眠だけではない

睡眠時間が削られているとき、その裏側では余裕や自己肯定感も一緒に削られていることが少なくありません。だから「寝なさい」だけでは足りず、かといって放っておくのも心配で、その板挟みで親御さん自身も眠れなくなる。そういう夏を過ごしている方は、決して少なくないと感じています。

改めて、3つのラインを整理します。健康に直結する範囲は親が線を引いていい。勉強の中身には踏み込まない。時間の設計は入試本番から逆算し、決めるのは本人に任せる。この3つを持っているだけで、深夜のやりとりはずいぶん楽になります。

そして、うまくいかない日があっても構いません。今日言えなかったことは、明日言えます。子供の生活リズムは、一晩で壊れることも一晩で直ることもなく、少しずつ動いていくものです。

ご家庭だけで抱え込まず、第三者の視点を入れることも一つの方法です。勝つ塾では保護者面談を通じて、学習の進み具合と生活リズムの両面からご家庭の状況を伺い、「今は何を優先すべきか」を一緒に整理しています。どう声をかけたらいいか迷っておられる時期こそ、お気軽にご相談ください。